5月中旬に国分寺市内の小学生を対象としたナショナルジオグラフィック・オープンキャンパスが本校の小室哲也記念ホールで開催されました。応募者が大変多かったため、初等部の皆さんの中には残念ながら抽選に外れて参加できなかった人もいたと聞いています。ココリコの田中直樹さんと一緒に、動物や自然について考える時間を持ちました。映像をもとに田中さんが客席に質問を投げかける形で進みました。例えばキリンやカバのオス同士の決闘のシーンが流された後、キリンの頭や首についての質問がありました。「キリンの首の骨の数はいくつでしょうか?」皆さんは知っていますか?ちなみに人間の首の骨は7つです。キリンは住む環境に合わせて進化した結果、今日の姿のように長い首を持つようになりました。キリンはその長い首を生かして決闘をします。さて、首の骨の数はいくつでしょう?

オープンキャンパスの最後に、参加者からの質問に答えるコーナーがありました。その中で大変興味深い質問がありました。「今いるサルはもう人間になれないのですか?」動物の進化についての質問ですね。皆さんならどう答えますか?田中さんと東武動物公園の動物飼育の専門家の方の回答は「サルが人間になったのではなくて、人間やサルのもとになる生き物から進化を重ねて、一方は人間に、一方はサルになりました。どちらももとになる生き物から進化した結果なので、サルが人間になることはありません」というようなものでした。

太陽の光を浴びる明るい時間と太陽の光を浴びない暗い時間がある。その時間が長くなったり短くなったりする。その結果暑くなったり寒くなったりする。地面があり、水があり、空気がある。空気は乾いている時と湿っている時がある。地球の中心にみんなを引っ張る重力というものもある。私たち人間を含め、地球に住む生き物はこうした地球という同じような環境の中で一緒に暮らしています。

いつの頃か地球上に生命が芽生え、その生命が少しずつ進化を重ねて様々な生物に変わっていきました。同じような環境と言っても、太陽の光を浴びる時間が短めのところと長めのところ、暑い時間が長めのところと短めのところ、乾いている時間が長めのところと短めのところなど、実際の環境には少しずつ違いがあります。生物はそれぞれの環境の中で必死に生き続けようとしました。その結果、その環境に合わせて少しずつ進化して現在の姿になったのです。

先ほどの質問「今いるサルはもう人間になれないのですか?」に戻ります。サルも人間も環境に合わせて懸命に生きてきた結果、今ある姿になりました。今も懸命に生きていますし、これからも懸命に生きていきます。ひょっとしてこれから先、環境が大きく変われば、サルの進化の先と人間の進化の先が再び交差することがあるかも知れませんね。

サルも人間も、地球という同じような環境の中で、ほんの少しずつ異なる環境に適応するために懸命に生き続け、進化し続けてきたのだとすれば、私たちの間に本質的な優劣はなく、対等な関係にあることになります。これは他の生物についても同じです。地球に住む生き物はみな懸命に生きています。だから敬意をもって共に生きていかなければならない。これが多様性を大切にするという考え方の根底にあるものだと思います。

早実で学ぶ皆さんについても同じことが言えそうです。クラスの一人一人はみんな異なっています。一人として全く同じ人はいません。それはこれまでそれぞれの環境の中で懸命に生き続けてきた結果でもあります。これからも、時には怠けることもあるかも知れませんが、毎日毎日懸命に生きていくのだと思います。だから皆さんの間にも本質的な優劣はなく、対等な関係にあることになります。だからお互いに敬意をもって接しなくてはならない。校訓の「三敬主義」とはまさにこのことを言っているのだと思います。

「今いるサルはもう人間になれないのですか?」という質問について、私なりにいろいろと考えてみました。ちなみにもう一つの問いの答えは「キリンの首の骨は人間と同じ7つ」です。この問いからもいろいろなことが考えられそうですね。

充実した夏休みを!

原載:『早実通信』199号(2019年7月)