今年も卒業の季節を迎えました。初等部を卒業する皆さん、中等部を卒業する皆さん、高等部を卒業する皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんにとって入学から卒業までの時間はどのようなものでしたか?卒業は大きな節目になります。在校生の皆さんにとっても1年が終わり、新たな年度を迎える一つの節目になります。  

人の一生は数々の節目から成り立っていますが、その中で最も大きな節目が「成年」です。子どもから大人への節目。保護される存在から自立した存在への節目。自分で何でも決められるけれど自分で全ての責任を負わなければならない存在への節目。「成年」になることで社会での立場がこれまでとは全く別のものに変わります。  

この大きな節目に関する制度が今年の4月1日から変わります。成年になる年齢はこれまで20歳でした。20歳(ハタチ)の成人式。明治時代から100年以上にわたってずっと続いてきたものですから、皆さんの頭の中には<20歳(ハタチ)=成年>というイメージが染みついていると思います。早実より長い歴史があります。これが今年の4月1日から18歳に引き下げられます。今年高等部を卒業する皆さんは、20歳になっていなくても4月1日以降は全員成年になります。高等部に在籍している人も4月1日以降は、18歳になった瞬間に成年になります。  

皆さんは早く大人になりたいですか?できるだけ子どものままでいたいですか?大人には大人としての権利、義務そして責任があります。良いことばかりではないですよね。でも皆さんは早実在学中に否が応でも大人になってしまいます。今回の成年年齢の引き下げは子どもの側からの強い要望があって実現したものではありません。大人の側が皆さんに早く大人になってほしいと思い、早く大人になる権利を与えたのです。  

一足先に20歳から18歳に引き下げられたものがあります。選挙権です。直近の国政選挙での10代の投票率はどのくらいだと思いますか?18歳と19歳、まさに選挙権年齢の引き下げにより新たに選挙権を得た人たちです。3年前の参議院選挙で32%、昨年の衆議院選挙で43%、いずれもワースト2に入っています。実は選挙権年齢の引き下げも、子どもの側からの強い要望があって実現したものではなく、大人の側が皆さんに早く主体的に政治にかかわってほしいと思い、権利を与えたのです。  

自分たちの切実な思いから苦労して、時には戦いにより勝ち取った権利と、苦労することなくなんとなく与えられた権利とでは、その重みが違うのかも知れません。  

私たちは今悩んでいます。在学中に大人になる皆さんとどう向き合っていくべきかと。権利は与えるべきものなのか勝ち取るべきものなのかと。  

今年の4月1日は早実にとっても大きな節目となるはずです。

原載:『早実通信』209号(2022年3月)