クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲(2001年 日本映画 原恵一監督)

「クレヨンしんちゃん」みなさん観たことがありますか?

1990年に『週刊マンガアクション』で連載が始まり、92年からテレビアニメの放映、93年に劇場アニメ第一作が公開されています。今年のゴールデンウイークに公開された「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!」はシリーズ第15作になります。

今回紹介するのは、この『複合文化学通信』第9号と奇しくも同じ、シリーズ第9作の《オトナ帝国の逆襲》。舞台は「20世紀博」というテーマパークが各地にできた21世紀初頭の日本。冒頭では、この「20世紀博」で遊ぶ野原一家が描かれます。この部分だけなら、テレビアニメの「クレヨンしんちゃん」と同じです。「20世紀博」、実は世界を20世紀(といっても1970年代)に逆戻りさせ、永遠に古き良き昭和の時代のままにしようという陰謀の拠点なのでした。

「明日、お迎えにあがります」という「20世紀博」からのメッセージがテレビで流された翌日、オトナたちは迎えに来たオート三輪(20世紀の象徴ともいえる三輪トラック)に乗って姿を消してしまいます。オトナたちは昭和の匂いとそれによってもたらされるノスタルジーにより、子どもに戻ってしまっていたのです。街には子どもたちだけが取り残されます。やがて、その子どもたちも一人また一人つかまえられていきます。怖いですねー。

しんちゃんとその仲間は、勇気をふりしぼって、自分たちの父と母、そして自らの未来である21世紀を取り戻すべく「20世紀博」に乗り込んでいきます。オトナたちを21世紀に取り戻すカギは何だったのか。それはやはり「匂い」でした。それも強烈な。何の匂いなのかはここには書かないでおきます。その匂いにより「今」を取り戻した野原一家は、陰謀を阻止すべく家族そろって戦い、勝利を収めます。そしてまた野原家の日常(テレビアニメで描かれている世界)に戻っていきます。

子ども向け映画の観衆は子どもだけではありません。幼稚園や小学校の子どもが一人だけで映画館に行くことはないですよね。そこには子どもの数だけのオトナがいるわけです。もちろんお金を出すのもオトナです。この点を突いて、子ども向け映画のふりをして、見事なオトナ映画にしてしまっているのが、「クレヨンしんちゃん」シリーズなのです。

シリーズには傑作がいくつもあります。とりわけ第4作《ヘンダーランドの大冒険》、第10作《戦国大合戦》は味わい深いものがあります。小さい頃に映画館で観たことのある人も、いやそういう人こそ、もう一度「今」の目で観なおしてもらいたいものです。きっと全く別の新しい映画として目の前に現れるでしょう。

原載:『複合文化学通信』第9号「fukugou-bunka@eiga」(2007.6.12)